ホルムズ海峡が止まると日本は何日耐えられる? 備蓄203日分と代替調達の実力

ホルムズ海峡が通れなくなった場合、日本は何日間、石油を確保できるのか。

この問いは、もはや仮定の話ではない。

2026年に入り、中東情勢の悪化によってホルムズ海峡を通過する原油タンカーの航行が大幅に制限され、日本政府は3月に国家備蓄石油約1カ月分の放出を決定した。その後も状況が改善しなかったため、4月にはさらに約20日分を放出する第2弾の措置を決め、民間石油会社に義務付けている備蓄量についても15日分引き下げた。

それでも日本国内で直ちにガソリンや原油がなくならなかったのは、備蓄だけで耐えたからではない。

米国、中南米、中央アジア、アフリカなどから原油を調達するとともに、サウジアラビアでは紅海側のヤンブー港、アラブ首長国連邦ではオマーン湾側のフジャイラ港を利用し、ホルムズ海峡を通らないルートを増やしたためだ。5月時点では通常時の約6割、6月には8割程度、7月には前年の平月並みに近い量を代替調達できる体制が見えてきた。

この経験から分かったのは、日本のエネルギー安全保障を「備蓄が何日分あるか」だけで判断してはいけないということだ。

本当に重要なのは、備蓄、代替調達、輸送ルート、製油所への到着時期を組み合わせて、必要な原油を継続して確保できるかどうかにある。


ホルムズ海峡は世界の原油輸送の約2割を担ってきた


ホルムズ海峡はイランとオマーンの間に位置し、ペルシャ湾とオマーン湾、さらにインド洋を結ぶ海上交通の要衝だ。

米エネルギー情報局(EIA)によると、2025年10~12月期には原油や石油製品など日量約2,160万バレルがホルムズ海峡を通過していた。

世界の石油供給量が日量約1億バレル規模であることを考えれば、世界の石油供給の約2割に相当する量が、この狭い海峡に集中していたことになる。

しかもホルムズを通る原油・コンデンセートの多くはアジアへ向かう。

2025年前半には、ホルムズ海峡を通過する原油・コンデンセートの89%がアジア市場向けで、中国、インド、日本、韓国の4カ国だけで全体の74%を占めていた。

日本にとってホルムズ問題は、遠い中東の地政学問題ではなく、国内エネルギー供給の問題そのものだ。


2026年には通過量が4分の1以下まで落ち込んだ


2026年に入ると、この海上輸送の構造が大きく崩れた。

EIAによれば、ホルムズ海峡を通過する原油・石油製品は2025年10~12月期の日量2,160万バレルから、2026年1~3月期には1,490万バレル、4~6月期には490万バレルまで減少した。

半年余りで約77%減少した計算になる。

その後は一部の船舶が航行を再開したものの、9月10日時点でも市場関係者の推計には日量600万~1,000万バレルと大きな幅があり、通常時の水準には戻っていない。

船舶がAISと呼ばれる自動識別装置の信号を切って航行するケースも増え、正確な通過量そのものを把握しにくくなっている。

つまり現在のホルムズ海峡は、「完全に閉鎖されたか、完全に開いているか」という二択ではなく、通航能力が大幅に低下した状態が続いていると見る方が実態に近い。


日本は原油の約9割以上を中東に依存してきた


日本にとって問題が特に大きい理由は、原油の調達先が中東に集中しているからだ。

資源エネルギー庁は、日本が石油と天然ガスのほぼ全量を海外から輸入し、原油については約9割を中東地域に依存していると説明している。

2024年の原油輸入では、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、クウェート、カタールなど中東地域の比率が約95%に達した。

その多くが従来、ホルムズ海峡を通って日本へ運ばれてきた。

17番の記事で見たように、日本の原油輸入量は2024年度で約1億3,629万キロリットル、1日平均では約235万バレルに相当する。

ホルムズ海峡の通航が止まれば、単に国際原油価格が上昇するだけでなく、日本が日々必要とする約200万バレル規模の原油を別の場所から探す必要が生じる。


3月には国家備蓄「1カ月分」の放出を決めた


日本政府は3月16日、ホルムズ海峡を原油タンカーが事実上通過できない状態が続いているとして、国家備蓄石油を当面1カ月分放出することを決めた。

同時に、石油会社などに義務付けている民間備蓄についても15日分引き下げた。

民間備蓄義務は通常70日分だったが、これを55日分へ引き下げることで、企業が保有している石油の一部を市場へ供給できるようにした。

国家備蓄を直接市場へ出す政策と、民間企業が保有する在庫を使いやすくする政策を同時に行ったことになる。


4月にはさらに20日分を追加放出


危機が長期化すると、政府は4月15日に第2弾として約20日分の国家備蓄石油を追加放出することを決めた。

この時点で政府は、ホルムズを通らないルートからの代替調達も並行して進めていた。

経済産業省によると、5月には前年実績の過半に相当する量を代替調達できる見通しが立ち、備蓄放出量を抑えながらも石油供給を継続できるとの判断に至った。

ここが重要だ。

石油備蓄は「危機が終わるまで全部使う」制度ではない。

備蓄を使って時間を稼ぎ、その間に別の供給源を確保するための安全網として機能する。


最新の公式統計では合計203日分


資源エネルギー庁が公表している2026年6月分の石油備蓄統計では、日本の備蓄は合計203日分となっている。

内訳は国家備蓄105日分、民間備蓄95日分、産油国共同備蓄3日分だ。

国際エネルギー機関(IEA)の算定基準では合計175日分となる。

単純に数字だけを見ると、日本は約6~7カ月分の石油を持っているように見える。

しかし「203日分あるから203日間、原油輸入がゼロでも従来通り生活できる」と理解するのは正しくない。


「203日分」は203日間完全に耐えられるという意味ではない


備蓄日数は、日本の1日当たりの石油消費量を基準として計算される。

つまり、現在保有している石油を一定の計算式で消費量と比較した指標だ。

実際の危機では、備蓄原油をどの基地からどの製油所へ送るのか、どの油種をどの製油所で処理できるのか、ガソリンや軽油など必要な製品へどれだけ早く精製できるのかといった物流上の問題が発生する。

さらに危機の初日から備蓄を全量放出するわけでもない。

供給不足の程度を見ながら、民間在庫、国家備蓄、代替輸入を組み合わせて使用する。

したがって203日という数字は、日本の安全余力を示す重要な指標ではあるものの、「203日後まで問題が起こらない」という保証ではない。


日本を救ったのは備蓄だけではなく代替調達だった


今回の危機で最も重要だった変化は、ホルムズを通らない原油調達を短期間で増やしたことだ。

資源エネルギー庁によると、2025年の日本の通常の原油調達量は日量約236万バレルだった。

2026年4月にはホルムズ問題によって代替調達量が日量約59万バレル、通常時の約25%にとどまったが、5月には約140万バレル、約6割まで増加した。

6月には165万バレル以上、7割を超える水準を確保する見通しとなり、その後6月の実績では前年平月比約8割、7月にはほぼ通常時の水準まで回復するめどが立った。

備蓄だけを取り崩し続けるのではなく、輸入経路そのものを組み替えたことが大きかった。


米国からの原油調達は一時、前年比約8倍へ


代替調達先として存在感を高めたのが米国だ。

資源エネルギー庁は5月時点で、6月の米国産原油調達について前年の約8倍に達する見込みを示していた。

さらに中南米、中央アジア、アジア太平洋地域に調達先を広げ、5月には中央アジア、6月にはアフリカからの原油も組み込む計画を進めた。

これまで中東原油への依存度が非常に高かった日本にとって、2026年の危機は原油の購入先を世界規模で組み替える契機になったとも言える。


中東原油でもホルムズを通らない道がある


代替調達は、中東原油を完全に諦めることを意味しない。

サウジアラビアには、東部の産油地域から紅海側のヤンブー港へ原油を送る東西パイプラインがある。

UAEには、アブダビの油田地域からホルムズ海峡の外側に位置するフジャイラ港まで原油を運ぶパイプラインがある。

日本政府と石油会社はこうしたルートを利用して、ホルムズを通らずに中東産原油を調達してきた。

IEAによると、サウジアラビアとUAEなどが持つホルムズ迂回パイプラインには合計で日量約350万~550万バレル程度の余力があると推定されている。

ただし危機前にホルムズを通っていた石油は日量2,000万バレルを超えるため、パイプラインだけですべてを代替することはできない。


世界全体では代替ルートが圧倒的に足りない


ここがホルムズ海峡問題の最大の弱点だ。

危機前には1日2,000万バレルを超える石油が海峡を通過していたのに対し、サウジアラビアやUAEのパイプラインで追加的に迂回できる量はその一部にすぎない。

EIAも、ホルムズ海峡が閉鎖された場合、代替ルートによって移送できる石油量は従来の通過量の一部に限られると指摘している。

つまり日本が米国やアフリカなどから原油を確保できたとしても、世界全体で不足する原油を各国が奪い合えば、価格は上昇する。

「日本向けの船を確保できるか」という物理的問題と、「その原油をいくらで買えるか」という価格問題は別に考える必要がある。


実際、2026年4~6月のホルムズ通過量は490万バレルまで減った


今回の危機は、代替ルートの限界を実際に示した。

EIAによれば、2026年4~6月期のホルムズ海峡を通過した石油は日量490万バレルまで減少し、2025年10~12月期の2,160万バレルと比べて約1,670万バレル減った。

サウジアラビアやUAEのパイプラインを最大限活用しても、この規模の減少を完全に埋めることはできない。

その結果、世界の買い手が米国、南米、アフリカなど別の原油を求め、輸送距離と運賃も上昇した。


原油があっても「船」がなければ届かない


原油の供給国を確保しても、それだけで日本へ届くわけではない。

タンカーが必要になる。

通常とは異なる地域から原油を購入すれば、航海距離が延び、1隻のタンカーが往復するまでの時間も長くなる。

その結果、世界で使えるタンカーの数が実質的に不足し、海上運賃も上昇しやすい。

ホルムズ危機が原油価格だけでなく、タンカー運賃や海上保険料まで押し上げる理由だ。


9月には「距離」の問題が改めて表面化した


代替調達が進んでも、輸送距離という問題は消えない。

日本政府は8月末、9月の原油調達量が前年の平均的な月の約8割まで一時的に低下するとの見通しを示した。

背景にあるのは、紅海方面の情勢悪化によって船舶がより長いルートを使う必要が生じたことだ。

政府説明では、通常のルートなら日本まで21~23日程度だった輸送が、スエズ経由では約55日かかるケースがある。

それでも、すでに放出を決めていた国家備蓄の未使用分を利用することで、9月に必要な原油は確保でき、10月には前年並みの調達水準へ戻す見通しが示されている。

これは、供給元を確保できても日本への到着時期がずれるという、島国特有のエネルギー安全保障問題を示している。


LNGもホルムズを通る


ホルムズ海峡の影響は原油だけではない。

EIAによると、2025年前半には日量114億立方フィートのLNGがホルムズ海峡を通過しており、世界のLNG海上貿易の20%以上に相当した。

その中心が世界有数のLNG輸出国であるカタールだ。

2026年4~6月期には、ホルムズを通るLNGも日量8億立方フィートまで急減している。

日本は原油ほど中東LNGへの依存度は高くないものの、世界市場からLNGを購入している以上、カタールからの供給が減ればアジア全体のLNG価格上昇を通じて影響を受ける。

したがってホルムズ問題は、ガソリンだけでなく電力や都市ガスにも波及する可能性がある。


備蓄203日分でも価格高騰は止められない


石油備蓄には、もう一つ明確な限界がある。

物理的に石油がなくなることは防げても、世界の原油価格そのものを長期間抑えることはできない。

日本が備蓄を取り崩して国内への供給を維持しても、世界市場で原油が100ドル、110ドルと上昇すれば、新たに購入する原油の価格は高くなる。

17番の記事で試算したように、日本の原油輸入量を一定とした場合、1バレル80ドルから100ドルへの20ドル上昇は、1ドル155円なら年間2兆円を超える追加購入費につながり得る。

備蓄は「量」の安全保障には強いが、「価格」の安全保障を完全に担うことはできない。


日本は何日耐えられるのか


では、結局日本はホルムズ海峡が止まった場合、何日耐えられるのか。

最新の公式統計だけを使えば、2026年6月時点の石油備蓄は合計203日分となる。

しかし実際の答えは「203日」ではない。

日本が石油を全く輸入できなくなり、消費量も変わらず、全備蓄を一律に使用するという極端な条件なら、備蓄日数は一つの目安になる。

現実には、2026年に起きたように輸入はゼロにはならず、米国、中南米、アフリカ、中央アジアから代替原油が入る。サウジアラビアやUAEからもホルムズを迂回して調達できる。

一方で輸送期間は長くなり、タンカーや保険のコストも増える。

したがって日本が「何日耐えられるか」は、備蓄量と同時に、毎日どれだけ新しい原油を確保できるかによって大きく変わる。


2026年の危機が示したのは「備蓄+調達」の重要性


ホルムズ危機が起きる前、日本の弱点は明確だった。

原油の約9割以上を中東へ依存し、その大部分を一つの海峡に頼っていた。

しかし実際に通航が大幅に制限されると、日本は国家備蓄を放出すると同時に、米国、中南米、中央アジア、アフリカへ調達先を広げ、中東でもヤンブーやフジャイラといったホルムズ外の積出港を利用した。

その結果、4月に通常時の約25%だった代替調達は、5月には約6割、6月には約8割へ増え、7月には通常時に近い調達量を確保するめどが立った。

この数字は、203日という備蓄日数以上に重要な意味を持つ。

備蓄を使い切る前に、新しい供給網を作ることができれば、危機への耐久時間は大幅に延びるからだ.


次の課題は「ホルムズ依存に戻らないこと」


ホルムズ海峡の通航が将来正常化すれば、中東産原油は価格、品質、輸送効率の面で再び日本にとって魅力的な調達先になる。

その結果、危機が終わった後に調達構造が以前の状態へ戻る可能性もある。

しかし2026年の経験は、一つの海上ルートに9割以上を依存するリスクを現実に示した。

実際、日本の石油会社の中には、情勢が正常化した後も紅海側ルートなど複数の輸送経路を残す方針を検討する動きが出ている。

日本のエネルギー安全保障で今後問われるのは、単に国家備蓄を何日分積み増すかではない。

平時からどれだけ調達先を分散できるか。

ホルムズを通らない中東原油をどれだけ確保できるか。

米国、南米、アフリカなどとの取引を危機後も維持できるか。

そして輸送距離が長くなった場合でも必要なタンカーを確保できるか。

ホルムズ海峡が事実上止まった2026年、日本は備蓄だけで危機を乗り切ったわけではない。

備蓄によって時間を買い、その時間で供給網を組み替えた。

日本が次の中東危機にどれだけ耐えられるかを決めるのは、「石油を何日分持っているか」以上に、「一つの海峡を通らなくても石油を買い続けられる仕組みをどこまで残せるか」である。

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