中国を訪れる日本人のビザ料金が、2026年9月14日から大幅に引き上げられた。
中国駐日本大使館によると、日本国籍者が中国ビザを申請する場合、シングルビザは1万6,750円、ダブルビザは2万5,100円、半年のマルチビザは3万3,500円、1年のマルチビザは5万250円となる。中国側は今回の変更について、「相互主義に基づく対応」と説明している。
ただし、ここで注意したいのは、日本人が中国を訪れるたびに1万6,750円以上を支払わなければならなくなったわけではないという点だ。
日本の一般旅券を持つ人については、商用、観光、親族訪問、交流訪問、トランジットを目的とする30日以内の滞在であれば、現在もビザ免除措置が適用されている。この措置は2026年12月31日まで延長されており、短期の中国出張や観光の多くは引き続きビザなしで入国できる。
今回の料金改定が直接影響するのは、30日を超える滞在や、就労、留学などビザ免除の条件に当てはまらない目的で中国に入国する人たちだ。
つまり「中国入国のコストが一律に上がった」のではなく、短期滞在と中長期滞在の間で負担の差が大きく広がったと見る方が実態に近い。
シングルビザは2,250円から1万6,750円へ
今回の改定幅は小さくない。
中国駐日本大使館が2025年12月に公表した料金では、日本国籍者向けのシングルビザは2,250円、ダブルビザは3,750円、半年マルチは4,500円、1年マルチは7,500円だった。中国側は当時、ビザ料金を段階的に引き下げる措置を2026年12月31日まで延長するとしていた。
それが9月14日以降、シングルは1万6,750円に変更された。
単純計算すると約7.4倍になる。
ダブルビザは3,750円から2万5,100円で約6.7倍、半年マルチは4,500円から3万3,500円で約7.4倍、1年マルチは7,500円から5万250円で約6.7倍となる。
料金だけを比べれば、これまでの一時的な引下げ措置から大きく転換したことが分かる。
ただし中国大使館は、9月14日以前に受理された申請については従来の料金を適用するとしており、第三国籍者向けの料金についても従来の基準を維持している。
では、日本人は中国に行くときビザが必要なのか
現在の制度では、多くの短期滞在者は必要ない。
中国政府は日本の一般旅券所持者について、商業・貿易、観光、親族訪問、交流・訪問、トランジットを目的とした30日以内の滞在であれば、ビザなしで中国に入国できる措置を実施している。
この制度は2026年12月31日まで延長されているため、例えば東京から上海へ数日間出張する会社員や、北京を1週間観光する旅行者であれば、原則として今回のビザ料金引上げの影響を直接受けない。
中国大使館のQ&Aによると、条件を満たす場合は複数回の無査証入国も可能で、現時点では無査証入国の回数や合計滞在日数について一律の上限は設けられていない。
ただし入国目的と実際の活動が一致している必要があり、無査証で認められていない活動を行うことはできない。
影響が大きいのは30日を超える滞在
今回の料金改定で負担が大きくなるのは、むしろ中長期の中国滞在を予定する人だ。
中国政府は、30日を超える滞在をあらかじめ予定している場合には、目的に応じたビザを事前に取得する必要があるとしている。
留学や就労なども、現在の30日間のビザ免除措置の対象ではない。
例えば中国企業とのプロジェクトで数カ月間現地に滞在する技術者や、中国法人へ赴任する社員、大学や研究機関へ留学する学生などは、引き続き適切なビザを取得する必要がある。
こうした人にとっては、今回の改定が実際の渡航コスト増につながる。
企業出張への影響は「期間」で大きく異なる
企業にとっても、影響を一括して考えることはできない。
日本企業の社員が中国へ1週間や2週間程度の商談、展示会、取引先訪問に行く場合、現在のビザ免除制度の条件を満たせば、ビザ料金そのものは発生しない。
一方、中国法人への長期出張や現地プロジェクトへの継続参加など、30日を超える滞在が必要になれば話は変わる。
特に複数回の渡航や長期滞在が前提となる企業では、ビザの種類によって3万円から5万円を超える費用が発生するため、社員数が多ければ会社全体の渡航コストにも影響する。
仮に10人の社員が1年マルチビザを取得するとすれば、ビザ料金だけで50万2,500円になる。
旧料金の7,500円で計算すれば7万5,000円だったため、同じ10人でも差額は42万7,500円に達する。
もちろん実際には滞在目的や申請条件によって取得するビザは異なるが、中長期で中国との人的往来が多い企業ほど料金改定の影響を受けやすいことは確かだ。
短期出張はむしろ無ビザ化で負担が軽くなっている
一方で、短期のビジネス往来だけを見ると状況は反対だ。
日本人に対する30日間のビザ免除が続いているため、数日から数週間程度の通常の商用訪問では、以前のように中国ビザを取得する必要がない。
申請書類を準備し、ビザセンターへ申請し、発給を待つ時間も不要になる。
その意味では、中国側は「短期の人的往来を容易にする政策」と「ビザが必要な滞在者への料金引上げ」を同時に実施していることになる。
この二つを分けて考えなければ、今回の制度変更を正確に理解することはできない。
観光客への直接的な影響は限定的
日本から中国へ旅行する一般の観光客についても、現時点では影響は限定的だ。
30日以内の観光目的ならビザ免除の対象となるため、上海、北京、西安、成都などを訪れる通常の旅行で新しいビザ料金を支払う必要はない。
中国側のビザ免除政策は、観光客やビジネス客などの短期訪問を増やし、国際的な人的往来を円滑にする目的で拡大されてきた。
日本は2024年から対象国に加わり、その後も免除期間が延長され、現在は2026年末まで利用できる。
したがって今回の料金改定だけを見て、「中国旅行が1万6,750円高くなった」と考えるのは誤りになる。
問題は2027年以降、無ビザ措置がどうなるか
日本人旅行者や企業にとって、むしろ重要なのは2027年以降だ。
現在のビザ免除措置は2026年12月31日までとされている。
この制度が再び延長されれば、短期の中国渡航については大きな変化は起きない。
しかし延長されなければ、商用や観光目的の短期渡航でもビザ取得が必要になる可能性がある。
その場合、今回引き上げられたビザ料金が一気に多くの日本人旅行者や企業に関係してくる。
例えばシングルビザ1万6,750円という水準が維持されたまま短期滞在のビザ免除が終了すれば、中国への旅行や出張の初期費用は現在より明確に高くなる。
したがって、今回の料金改定そのもの以上に、年末までにビザ免除措置が再延長されるかどうかが次の焦点になる。
日本から中国への渡航は二つの制度で動いている
現在の中国入国制度は、一見すると分かりにくい。
一方では日本人向けのビザ料金が大幅に引き上げられた。
もう一方では、日本人の一般旅券所持者は30日以内の商用や観光などについてビザなしで中国へ入国できる。
このため、同じ日本人でも渡航目的と滞在期間によって負担は大きく異なる。
数日間の上海出張ならビザは原則不要だが、数カ月間の赴任や留学ならビザが必要になり、今回の新料金が関係する。
この違いを理解しないまま「中国ビザ値上げ」という見出しだけを見ると、実際以上に広い範囲で渡航費用が増えたように見えてしまう。
「相互主義」が次の論点に
中国大使館は今回の料金改定について、「相互主義に基づく対応」と説明している。
ただし9月11日に公表された通知では、料金変更の具体的な外交的経緯について詳しい説明はしていない。
このため、料金がなぜこの水準まで引き上げられたのかを考える際には、日本が中国人に適用しているビザ制度や料金体系との関係も確認する必要がある。
ここは単なる旅行コストの問題ではなく、日中両国の査証政策における相互主義という外交原則につながる。
一方で、中国が日本人に30日間の無査証入国を認めているのに対し、日本の短期滞在ビザ制度では中国国籍者を一般的な査証免除国・地域の一覧に含めていない。日本外務省が公表する短期滞在の査証免除対象は74カ国・地域で、中国本土は含まれていない。
この非対称な構造が、今後の日中間の査証政策を考えるうえで重要なポイントになる。
今回の変更で確認すべき三つのこと
中国への渡航を予定している日本人にとっては、まず滞在期間が30日以内かどうかを確認する必要がある。
次に、観光や商用などビザ免除の対象となる目的か、それとも就労や留学などビザ取得が必要な目的なのかを確認する。
そして三つ目が、2026年末で期限を迎えるビザ免除措置が2027年以降も続くかどうかだ。
この三点によって、今回のビザ料金引上げが自分の渡航に関係するかどうかは大きく変わる。
9月14日から始まった料金改定は確かに大幅な引上げだが、現在の中国入国制度を理解するには「ビザはいくらになったか」だけを見るだけでは足りない。
短期滞在については無ビザ化が維持される一方、中長期滞在ではビザ取得費用が大きく増えるという二重構造になっているからだ。
日本企業や旅行者にとって次に注目すべきなのは、2026年末までとされる30日間のビザ免除措置がその後も継続されるのかという点になる。
それによって今回の料金改定が一部の中長期滞在者だけの問題にとどまるのか、それとも日本から中国への幅広い人的往来に影響する問題へ変わるのかが決まる。