日本人が中国へ渡航する際、「ビザは必要なのか」「出張ならどの査証を取ればいいのか」と迷う場面は少なくない。
現在、日本の一般旅券を持つ人は、商用、観光、親族訪問、交流・訪問、トランジットを目的とする30日以内の滞在であれば、2026年12月31日まで中国への入国ビザが免除されている。短期間の観光や通常の出張であれば、原則として事前にビザを取得する必要はない。
一方、30日を超える滞在や就労、長期留学など、ビザ免除の条件に当てはまらない場合は、渡航目的に応じた査証をあらかじめ取得する必要がある。
中国の査証制度では、観光の「L」、商用の「M」、就労の「Z」、留学の「X1・X2」など、渡航目的ごとに種類が細かく分かれている。中国ビザ申請サービスセンターも、申請時に観光、ビジネス、交流、就労、留学、親族訪問などの目的別に査証を選択する仕組みを設けている。
つまり、中国ビザを考える際に最初に確認すべきなのは「何日滞在するか」だけではなく、「中国で何をするのか」という渡航目的だ。
30日以内なら多くの観光・出張はビザ不要
現在のビザ免除措置では、日本の一般旅券所持者が中国を訪れる場合、商業・貿易、観光、親族訪問、交流・訪問、トランジットのいずれかを目的とし、滞在期間が30日以内であればビザなしで入国できる。
例えば東京の企業に勤務する社員が、上海で5日間の商談を行う場合や、北京の取引先を2週間訪問する場合、現在の免除条件を満たせば事前のMビザ取得は原則として必要ない。
観光も同様で、上海や北京、西安、成都などを1週間から2週間旅行する一般的なケースであれば、30日以内の滞在として無査証入国の対象となる。
ただし、同じ短期滞在でも渡航目的が免除対象に含まれなければ、事前に査証が必要になる可能性がある。
そのため「30日以内なら何をしてもビザ不要」と理解するのは正確ではない。
観光ビザ「L」はどんな場合に必要か
中国の観光査証は「Lビザ」と呼ばれる。
中国大使館の案内では、観光目的で中国を訪れる人が対象で、申請時には往復航空券とホテル予約表、または中国国内の機関や個人が発行した招聘状などを提出する仕組みとなっている。
現在、日本人は30日以内の観光であればビザ免除を利用できるため、一般的な短期旅行でLビザを取得する必要はない。
一方、30日を超える旅行を予定している場合や、無査証入国の条件から外れる場合には、Lビザの取得を検討する必要がある。
この違いから見ると、現在のLビザは日本人にとって「中国旅行に必ず必要な査証」というより、免除条件から外れる観光客向けの制度になっている。
ビジネスは「Mビザ」、ただし短期出張なら免除対象
企業関係者が特に注意したいのがMビザだ。
Mビザは、中国で商業・貿易活動を行う人を対象としたビジネス査証で、中国国内の取引先などが発行する招聘状が必要書類として示されている。
ただし現在は、商業・貿易目的も30日以内のビザ免除対象に含まれている。
そのため短期間の商談、展示会参加、取引先訪問などであれば、日本の一般旅券所持者はMビザを取得せずに入国できる場合が多い。
一方、プロジェクトの現地対応などで30日を超えて滞在する場合や、通常の商用訪問を超える活動を行う場合は、目的に合った査証をあらかじめ確認する必要がある。
ビジネス目的だから必ずMビザが必要なのではなく、現在は「活動内容」と「滞在期間」の両方で判断する必要がある。
交流・視察は「Fビザ」に分類される
商取引そのものではなく、技術交流や視察、研究機関への訪問などを目的とする場合は、Fビザが使われる。
中国大使館はFビザについて、交流、訪問、考察などの非商業活動を目的とする人を対象としており、中国国内の関係機関または個人による招聘状を必要書類として示している。
現在の日本人向けビザ免除制度では「交流・訪問」も対象に含まれているため、30日以内で条件を満たす場合にはFビザを取得せずに入国できる。
一方、長期の研究交流や継続的な活動など、30日を超える場合にはFビザなど適切な査証が必要になる。
中国で働くなら「Zビザ」が必要
短期出張と現地就労は、制度上は同じではない。
中国国内で実際に働く場合に使われるのがZビザだ。
中国大使館の案内では、Zビザは就労を目的として中国へ渡航する人が対象で、申請には中国側が発行する「外国人工作許可通知」などの書類が必要とされている。
例えば日本企業の社員が中国法人へ赴任し、現地で継続的に勤務するケースでは、単なるビジネス出張とは扱いが異なる。
30日以内であっても、観光や通常の商談とは異なる就労活動を行うのであれば、無査証入国だけで問題ないと判断するべきではない。
中国で雇用関係に基づいて働く場合は、Zビザやその後の居留手続きが重要になる。
180日を超える留学は「X1」、短期留学は「X2」
中国への留学は、滞在期間によって査証が分かれている。
中国ビザ申請サービスセンターでは、180日を超える長期留学を「X1」、180日以内の短期留学を「X2」として区分している。
このため中国の大学や教育機関へ1年間留学する場合にはX1ビザ、数カ月程度の短期留学ではX2ビザが基本となる。
特にX1は、中国入国後に居留許可の取得が必要となる長期査証の一つで、通常の短期観光とは手続きの性格が大きく異なる。
2026年12月31日まで実施されている短期査証申請者の指紋採取免除についても、X1ビザなど入国後に居留書類を取得する査証は対象外とされている。
親族訪問はQ1・Q2に分かれる
中国人の家族や、中国の永久居留資格を持つ外国人を訪ねる場合には、Qビザが使われる。
中国ビザ申請サービスセンターでは、180日を超える滞在を予定する場合をQ1、180日以内ならQ2として区分している。
例えば中国に住む親族を数週間訪問する場合と、長期間家族と生活する場合では必要となる査証が異なる。
現在の日本人向けビザ免除制度には親族訪問も含まれているため、30日以内で条件を満たせば無査証で入国できる。
一方、30日を超えて滞在する場合には、Q1やQ2など目的に応じた査証を確認する必要がある。
中国在住外国人の家族はS1・S2
中国で働いたり留学したりしている外国人の家族が中国へ渡航する場合には、Sビザが使われる。
S1は180日を超える長期滞在、S2は180日以内の滞在を対象としており、配偶者や両親、子どもなどが対象となる。
例えば日本人社員が中国へ赴任し、その家族も長期間中国で生活する場合には、本人のZビザとは別に、家族側でS1などの査証が必要になるケースがある。
企業の海外赴任では、本人の就労ビザだけでなく、同行家族の査証まで含めて手続きを考える必要がある。
記者はJ1・J2、乗務員はCビザ
一般の観光客や会社員とは別の査証区分もある。
外国報道機関の中国駐在記者はJ1、短期取材を目的として中国を訪れる外国人記者はJ2に分類される。
航空機や船舶などの乗務員にはCビザ、永住を目的とする場合にはDビザ、高度外国人材にはRビザが設けられている。
このように中国の査証は、単に「短期か長期か」だけでなく、渡航者が中国で行う活動によって細かく区分されている。
180日以内の短期ビザは指紋採取免除
ビザが必要な場合でも、2026年は申請手続きの一部が簡素化されている。
中国駐日本国大使館によると、2026年12月31日まで、滞在期間180日以内の短期ビザ申請者については原則として指紋採取を免除している。
一方、D、J1、Q1、S1、X1、Zなど、中国入国後に居留関係の手続きが必要となる査証については、引き続き指紋採取の対象となる。
つまり同じ「中国ビザ」でも、短期観光や商用査証と、就労・長期留学・長期家族滞在では申請時の手続きが異なる。
ビザ料金は9月14日から大幅に上がった
査証が必要な人にとっては、2026年9月14日から料金も大きく変わった。
中国大使館によると、日本国籍者の査証料金は、シングルが1万6,750円、ダブルが2万5,100円、半年マルチが3万3,500円、1年マルチが5万250円となった。中国側は今回の変更を「相互主義に基づく対応」と説明している。
以前の基本料金はシングル2,250円、1年マルチ7,500円だったため、特にビザ取得が必要な長期滞在者や複数回渡航者にとって負担増は大きい。
ただし30日以内の商用や観光でビザ免除が使える人には、この料金は直接関係しない。
「中国出張」は無ビザと就労を混同しないことが重要
企業実務で特に注意したいのが、「出張」と「就労」の境界だ。
数日間の商談や展示会、取引先訪問は現在の無査証制度の対象となり得るが、中国法人で継続的に勤務したり、現地で就労資格を必要とする活動を行ったりする場合には、Zビザなど別の手続きが必要になる。
単に滞在期間が30日以内だから、どのような業務でも無査証で行えると考えるのは危険だ。
会社側も中国への渡航を手配する際には、滞在日数だけではなく、現地で予定している活動内容を基準に査証の要否を確認する必要がある。
複数回入国する場合も30日基準が基本
中国大使館の無査証政策に関する案内では、条件を満たす場合、ビザ免除で複数回中国へ入国すること自体は可能とされている。
そのため、1回目に10日間、数週間後に再び1週間出張するといったケースでも、各渡航が免除条件を満たしていれば必ずしもマルチビザが必要になるわけではない。
ただし頻繁な入国を繰り返す場合や、実際の活動内容から長期滞在や就労と判断される可能性がある場合には注意が必要だ。
無査証制度はあくまで対象となる渡航目的についての入国免除であり、中国で行う活動そのものに無制限の権利を与える制度ではない。
2027年以降はルールが変わる可能性がある
現在の日本人向け30日間ビザ免除措置は、2026年12月31日までの期限付きだ。
年末までに中国政府が制度を再延長すれば、2027年も短期の観光や商用渡航では現在と同じ利便性が続く可能性がある。
一方、延長されなければ、現在は無査証で渡航できる人もビザを取得しなければならなくなる可能性がある。
しかも9月14日から日本国籍者の査証料金は大幅に引き上げられているため、免除制度が終了した場合の影響は小さくない。
今後中国への旅行や出張を予定する人にとって、2026年末の政策判断は重要な確認事項になる。
最初に確認するのは「期間」より「目的」
中国渡航でビザが必要かどうかを判断するとき、「30日以内か」という条件は確かに重要だ。
しかし、それだけでは十分ではない。
現在の免除対象は商用、観光、親族訪問、交流・訪問、トランジットであり、中国で就労する場合や長期留学をする場合には、それぞれZビザやXビザなど目的に合った査証が必要になる。
短期観光なら無査証、通常の短期出張も条件を満たせば無査証、現地就労ならZビザ、180日を超える留学ならX1、短期留学ならX2というように、渡航内容によって制度は明確に分かれている。
日本人に対する30日間のビザ免除によって中国への短期渡航は大幅に簡単になったが、ビザ制度そのものがなくなったわけではない。
中国へ行く前に確認すべきなのは、「ビザが必要か」という一つの質問だけではなく、「何の目的で、何日間滞在し、現地で何をするのか」という三つの条件だ。
この三点を整理すれば、自分に必要な査証も見えやすくなる。