中国の工業利益は、2026年1〜8月の累計で前年同期比15.7%増となった。どの産業がこの増益を支えたのかという問いに対する直接の答えは、国家統計局が9月28日に示したとおり、電子業種の寄与がきわめて大きかった、ということだ。計算機・通信機器・その他電子設備製造業の利益は前年同期比110%増となり、一定規模以上の工業企業全体の利益増加分に対する寄与率は62.0%に達した。
ここで注意したいのは、62.0%は「工業利益総額のうち電子業種が62%を占めた」という意味ではない点である。あくまで、全体の利益が前年よりどれだけ増えたかという増加分のうち、電子業種がどれだけ押し上げたかを示す指標だ。また、110%増は「利益が前年の2.1倍になった」という意味であり、利益水準そのものが110%になったという説明も正確ではない。
公表は2026年9月28日、対象は「一定規模以上」の工業企業
今回の数字は、中国国家統計局が2026年9月28日に公表した1〜8月分の工業企業収益データに基づく。対象となるのは「規模以上工業企業」で、中国の統計では年の主要業務収入が2,000万元以上の工業法人などを指す。中国の月次工業統計ではこの区分が広く使われており、中小零細まで含む企業全体の収益をそのまま表すものではない。
利益統計は比較可能な口径で算出されているため、単純な名目金額の足し引きよりも、前年同期との変化を見るのに向く。1〜8月の一定規模以上工業企業は、営業収入が93.09兆元で前年同期比6.6%増、営業コストは79.19兆元で6.1%増だった。営業収入利益率は5.66%と、前年同期より0.44ポイント上昇している。売上の伸びがコスト増をやや上回り、利益率も改善したことが、累計二桁増益の土台になった。
累計15.7%増の中身は、製造業が中心で電子が突出
大分類で見ると、1〜8月の利益総額は鉱業が35.1%増、製造業が17.4%増だった一方、電力・熱・ガス・水の生産供給業は12.0%減だった。つまり、全産業が一斉に改善したわけではなく、製造業と資源関連の一部が全体を引っ張る構図である。
そのなかでも突出しているのが電子業種だ。国家統計局の解説では、人工知能を代表とする新技術の応用拡大が関連需要を押し上げ、電子業種の利益を大きく押し上げたとしている。ただし、これをもって「中国の工業増益はAIだけが原因」と言い切るのは適切ではない。実際には、工業生産の安定した伸びと工業製品価格の上昇幅拡大が共通の追い風となっており、そのうえで電子分野が最も強く反応したと見るのが自然だ。
同時に、高技術製造業全体の利益は54.7%増だった。電子だけでなく、中国の工業利益がより付加価値の高い分野へ依存度を高めていることを示す数字でもある。ただし、高技術製造業の伸び率と、電子業種の全体増益への寄与率62.0%は別の指標であり、同列に読んではいけない。
電子以外では非鉄、石炭、化学が増益を支える
電子業種に注目が集まる一方で、増益の支えはそれだけではない。主要業種では、非鉄金属製錬・圧延加工業が82.9%増、石炭採掘・洗鉱業が51.6%増、化学原料・化学製品製造業が51.0%増、石油・天然ガス採掘業が17.0%増、繊維業が11.9%増、汎用設備製造業が2.5%増となった。資源価格や中間財需要、製造業の更新需要が利益面を支えたことがうかがえる。
一方で、利益が落ち込んだ業種も少なくない。専用設備製造業は2.1%減、電気機械・器材製造業は5.2%減、自動車製造業は16.0%減、農副食品加工業は17.4%減、非金属鉱物製品業は46.7%減、鉄鋼にあたる黒色金属製錬・圧延加工業は62.4%減だった。石油・石炭その他燃料加工業は赤字から黒字に転じたが、全体としては業種ごとの差がかなり大きい。したがって「中国工業全体の採算が広く均等に改善した」と受け取ると実態を外す。
8月単月は4.2%増、累計との混同は禁物
今回のデータで特に重要なのは、8月単月と1〜8月累計を分けて読むことだ。国家統計局によれば、8月単月の一定規模以上工業企業利益は前年同月比4.2%増だった。これは累計の15.7%増よりかなり低い。単月の伸びが弱いのに累計が高いのは、それまでの高い増益率が残っているためで、同じ数字ではない。
実際、1〜7月累計の利益増加率は17.6%だったため、1〜8月累計の15.7%は前月までより伸びがやや鈍化したことを意味する。国家統計局は、8月は前年同月の比較基準が高かった影響で利益の伸びが低下したと説明している。月次の勢いだけを見るなら、利益拡大のペースは夏場に入ってやや落ち着いたと読める。
ただし、8月単月が4.2%増でもなおプラス圏を維持し、粗利益ベースでは7.5%増と前月より伸びが加速した点は押さえておきたい。累計ベースでは二桁増益を保ち、単月ベースでは増勢が鈍化した――この二つを併せて見ることで、全体像がつかみやすくなる。
日本の読者が押さえるべき論点は「構造的な集中」と「裾野の弱さ」
日本の読者にとって今回の統計で重要なのは、中国の工業利益が回復しているという一点だけではない。増益がどこに集中しているかを見ると、電子業種への依存が非常に大きい。寄与率62.0%という数字は、全体増益の大半を単一の大分類が支えていることを示しており、回復の裾野が広いとは言いにくい。
同時に、製造業全体は17.4%増と堅調で、非鉄や化学、石炭など複数の分野にも増益が広がっているため、電子だけの現象でもない。つまり、中国の工業利益は「幅広い全面改善」でも「AIだけで説明できる一本足」でもなく、電子を中心にしつつ、資源・素材系の一部が補完する形で押し上げられている。9月28日時点で確認できる一次資料から導ける結論はここにある。