日本の核融合エネルギー企業Starlight Engineが、2030年代の核融合「発電」実証に向けた初の外部資金調達を完了した。7月15日に第三者割当増資で60億6,000万円を確保したと発表。リードはグローバルブレインで、電力、建設・不動産、通信、金融、素材、大学系VCなど計17の出資主体が参加した。調達資金は民間プロジェクト「FAST(Fusion by Advanced Superconducting Tokamak)」の工学設計、技術開発、用地選定・規制対応、サプライチェーン構築に投じる。今後2年で従業員規模を約200人まで拡大する計画である。
Starlight Engineは2025年4月に設立された。京都フュージョニアリングのグループ会社としてFASTを統括する。プロジェクト自体は2024年11月に始動し、2025年11月に概念設計を完了。実機建設を見据えた工学設計段階に移行した。方式はトカマク型で、ITERや日欧共同のJT-60SAで蓄積された国内の研究基盤を生かし、技術リスクを抑えながら実証へつなぐ戦略をとる。
FASTの狙いは核融合反応の達成にとどまらない。重水素とトリチウムの反応で高温プラズマを安定維持しつつ、発生したエネルギーを電力へ取り出す熱・発電系、燃料供給と循環、超伝導磁石、プラント構造、保守までを一体の「発電システム」として統合実証する点に特徴がある。研究室での高出力反応と、発電所として安定的に送電することの間には大きな隔たりがあるためだ。
出資者の顔ぶれは幅広い。三井不動産、KDDI系ファンド、東急建設、富国生命保険、京都大学イノベーションキャピタル、慶應イノベーション・イニシアティブ、関西電力系ファンド、フジクラ、古河電気工業、みずほ銀行、三菱UFJ銀行などが参加。海外からは旧Airbus VenturesのAVも加わった。将来の発電所建設・運営に不可欠な分野が資本で結び付き、サプライチェーンづくりを見据えた性格が強い。
KDDIは今回の出資にあわせ、自社の通信網やAIコンピューティング基盤を核融合実証に活用する可能性に言及した。AI普及で電力需要が増える中、安定供給かつ低炭素の新電源として核融合を位置づけ、事業化支援に取り組むとしている。
政策面でも追い風がある。日本政府は核融合を戦略産業と位置づけ、2030年代の発電実証を目標に掲げて支援を拡充している。精密製造や超伝導、材料といった裾野を含む国内基盤の厚さは、実証から産業化へ進むうえでの強みとなる。
もっとも、60億6,000万円は出発点にすぎない。核融合は設計・部材試験、規制審査、用地確保、建設に長期・巨額の資金を要する資本集約型の事業であり、今後の大型調達は不可避である。技術面でも高温プラズマの安定制御、中性子に耐える材料、トリチウムの管理など未解決の課題が並ぶ。工程が遅れれば必要資金は膨らむ。工程どおりに工学設計を進め、用地と規制枠組みを整え、主要部材の国内供給網を固められるかが成否を左右する。
同社が担うのは、あらゆる要素技術を自前で抱えることではなく、大学・研究機関、京都フュージョニアリング、素材メーカー、電力会社などを束ねて「統合発電実証」を仕上げるプロジェクト会社の役回りだ。多様な業種からの同時出資は、この構図を反映する。今回の資本は一社への賭けにとどまらず、日本が研究の蓄積を発電プラントと産業供給網へ転換できるかを試す初期の産業資本である。FASTが計画通りに進めば、装置そのものに加え、超伝導磁石、材料、熱管理、保守、プラントエンジニアリングといった周辺分野まで裾野の広いビジネス機会が開ける。