経済産業省と総務省は8月4日、地方自治法施行令第167条の2第1項第4号に基づく「4号随意契約」を活用し、自治体によるスタートアップ製品・サービスの調達を拡大するよう、全国の地方自治体に通知した。政府が選定する「J-Startup」企業については、従来必要だった有識者の意見聴取手続きを一部省略できる仕立てとし、調達の迅速化と負担軽減を図る。政府は毎年の活用実態の把握や優良事例の横展開も進める方針で、8月6日には関連資料の一部を差し替えて再公表した。
日本の自治体契約は原則として一般競争入札だが、一定の事由に該当すれば随意契約が可能だ。なかでも第4号は「新事業分野の開拓」に関連する新たな商品やサービスを対象に据え、実績や納入経験が乏しい企業にも公的調達の扉を開くための例外規定と位置づけられている。政府はこの枠組みを、地域課題の解決に資する新技術の初期需要創出に結びつけ、検証済みの調達事例を他地域へ広げる導線として機能させたい考えだ。
従来、自治体がスタートアップの新商品・新サービスを4号随意契約で購入するには、企業から「新事業分野開拓計画」の提出を受け、2人以上の学識経験者の意見を聴取したうえで、対象の認定手続きを進める必要があった。他方、すでに他の自治体がその計画を認定している場合は、意見聴取の再実施を省ける仕組みがある。今回の通知では、経済産業省の「J-Startup」選定プロセス(2人以上の有識者の意見を経る)を、この認定手続きと同等とみなし、J-Startup企業の製品・サービスを4号随意契約で調達する際は、別途の意見聴取を省略できるよう運用を明確化した。
投資・資金支援に偏りがちだったスタートアップ政策の重心を、「実際に買う」ことで市場をつくる段階へ移す狙いも透ける。行政、環境、福祉、交通、災害安全といった公共領域の技術は、民間だけでは初期需要を確保しにくい。自治体が初期顧客となれば、企業は現場環境での実証を通じて技術を磨き、他の公的機関や民間への展開に不可欠な納入実績を積むことができる。公的調達を、イノベーションの実装を後押しする「最初の市場」として活用する発想だ。
日本の調達現場では、財務の安定性や豊富な納入実績が重視され、既存大手に有利な構図が根強かった。一方、AI、ロボット、デジタル行政、省エネ、医療・介護、災害対応など技術変化の速い分野では、新たな行政ニーズに既存製品だけで応えるのが難しい局面が増えている。手続きを簡素化し、自治体側の評価負担を下げる今回の措置は、スタートアップに限定的でも確かな参入経路を与え、調達市場とイノベーション生態系を結び直す効果が見込まれる。企業側にとっても、地域ごとに繰り返し審査を受けるコストと時間の圧縮につながる。
実装を後押しするための運用支援も用意される。政府は7月21日に閣議決定した「日本成長戦略」に、全国の自治体での4号随意契約によるスタートアップ調達の実施状況を毎年定期的に調査し、活用促進に向けた助言や支援を行う方針を明記。総務省は4号随意契約の実績を調べ、主要な調達事例を整理した事例集を作成して全国へ配布し、同省のウェブサイトでも公開した。単なる制度周知にとどまらず、成功事例の見える化と横展開で現場の不安を和らげる狙いがある。
もっとも、監査や特例扱いへの懸念から、担当者が契約に慎重姿勢を崩さない可能性は残る。こうした行政現場の心理的ハードルを下げられるかは、政府の実態把握とフィードバック、事例の共有にかかる。韓国でも「革新調達」など公的需要を活用する取り組みが進むが、日本の今回の特徴は、中央政府のスタートアップ選定プログラム(J-Startup)と自治体の随意契約手続きを直接連動させ、他自治体での認定や中央の選定実績を生かして重複審査を減らす点にある。
制度の成否は、自治体の実際の活用度合いに左右される。政府は毎年の実績調査と優良事例の全国展開を通じて、調達の規模や参加企業数の拡大を継続的に管理していく考えだ。スタートアップの売り上げ拡大、現場での技術検証の進展、類似分野への横展開がどこまで進むかが、政策の成果を測る物差しとなる。現時点で特定の国際的な波及は報告されていないが、国内では自治体のデジタル化や省人化の要請が強まるなか、公的調達が技術実装を後押しする実効性を持てるかどうか、年度内の動向が試金石となりそうだ。