韓国のバイオ医薬品企業セルトリオンは、アレルギー疾患治療薬「オムリクロー(一般名オマリズマブ)」の300㎎製剤を欧州市場に本格投入し、供給拡大に踏み切った。300㎎投与が必要な患者に対し、従来の150㎎製剤を2回注射する代わりに1回で同量を投与できるのが特徴で、投薬手順と患者負担の軽減を前面に打ち出す。
同社は欧州で初めてのオマリズマブのバイオシミラーとして「オムリクロー」を展開しており、用量の拡充と投与デバイスの多様化で製品競争力を高める構えだ。既存の75㎎・150㎎に300㎎が加わり、治療状況や必要用量に合わせた選択肢が広がる。供給地域はドイツ、英国、フランスなど主要国へと順次拡大している。
オマリズマブは免疫グロブリンE(IgE)に選択的に結合するモノクローナル抗体で、アレルギー反応の経路に関与する。欧州ではアレルギー性喘息、慢性特発性じんま疹、鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎などで用いられる。欧州医薬品庁(EMA)は、「オムリクロー」が参照製品と構造・純度・生物学的活性の各面で高い類似性を示し、臨床試験でも有効性・安全性の同等性が確認されたと評価している。
承認経緯は次の通りだ。2024年5月に欧州連合(EU)欧州委員会から75㎎/150㎎のプレフィルドシリンジ(PFS:事前充填式注射器)が承認され、その後2025年11月に300㎎/2mLのPFSが追加承認を取得した。今回の供給拡大は、この300㎎製剤を含めたラインアップの充実を背景に進む。
300㎎の単回製剤は、同一用量でも注射回数を減らせる点が直接的な優位性となる。注射回数の削減は患者の不快感や通院負担の軽減につながり、医療現場における投与オペレーションの簡素化にも資する。一方で、実際の投与量や間隔は疾患、体重、血中IgE濃度などに基づき医師が判断する必要がある。
セルトリオンはデバイス面でも選択肢を広げ、PFSに加えてオートインジェクター(自動注射器)形態でも提供する。価格に偏りがちなバイオシミラー市場で、投与利便性を競争軸に取り込む戦略だ。保管条件も差別化要素としており、冷蔵で最長2年間、最高25℃の室温で最長7日間の保管が可能で、所定条件下では室温曝露後に再冷蔵できる設計だという。長期在庫を抱える病院・薬局や自己注射の患者にとって運用上の利点となりうる。
市場浸透のスピードも注目される。市場調査会社のデータを基に同社が公表した数値では、欧州での本格発売(2025年9月)から約半年後の2026年1~3月期におけるオマリズマブ市場シェアは約16%に達した。国・地域ごとの動向では、英国で国民保健サービス(NHS)の複数地域入札を獲得したほか、デンマークでは2026年初に同社集計で98%、イタリアは15州で供給を拡大し一部地域で単独契約を得たとする。スペインでは州政府入札の獲得や個別病院への供給拡大により、一部市場でシェアが90%を上回ったという。これらの国別シェアは同社公表の数値である点は留意が必要だ。
セルトリオンは欧州での直販体制を構築し、病院および政府系の入札市場を継続的に開拓してきた。既存のバイオシミラー製品で培った流通・営業網に「オムリクロー」を重ねる形で展開することで、新規製品ごとに販路を一から整える負担を抑えている。
欧州の公的保険制度や国別の薬価・入札設計はバイオシミラーの採用に大きく影響するため、今後の実売は価格競争や後続品の登場時期に左右される可能性がある。ただ、欧州初のオマリズマブ・バイオシミラーという先行性に、75/150/300㎎の用量多様化と複数デバイスの組み合わせを加えた点は、初期の処方獲得を後押しする材料となる。300㎎製剤の拡販が、300㎎投与レジメンの患者における「1回化」を促し得るかが当面の焦点だ。
バイオ医薬の採用は臨床上の利便性や供給安定性も評価軸となりつつある。欧州でのオマリズマブ市場におけるこうした製品設計の競争は、グローバル展開を志向する企業にとって示唆が多い。日本の産業界にとっても、デバイスや保管性まで含めた差別化によってバイオシミラーの提供価値を高める取り組みは、今後の戦略立案の参照点となるだろう。