国交省は時間雨量に応じた輸送の目安を提示 出発見合わせから運行再開まで、荷主と運送会社が決めておきたいこと
大雨時の物流では、警報が出た地域を確認するだけでは、配送を続けられるか判断できない。走行予定の道路が安全か、到着までに危険が高まらないか、納品先で荷物を降ろせるかを確認する必要がある。安全を確認できない区間があれば、出発を見合わせ、すでに走行している車両については安全な場所で運行を中断する判断が求められる。
国土交通省は、異常気象時のトラック輸送について、雨の強さなどに応じた措置の目安を示している。時間雨量が30~50ミリの場合は輸送中止も検討すべき段階とし、50ミリ以上では輸送することは適切ではないとしている。警報発表時についても、安全確保の措置を講じたうえで輸送の可否を判断するよう求めている(国土交通省、2020年)。
つまり、「警報が出たら全国の配送を一律に止める」という仕組みではないが、「会社ごとの判断だから自由に続けてよい」という意味でもない。公的な目安を踏まえ、経路と現場の危険に応じて出発見合わせ、中断、延期を選ぶ必要がある。本稿ではトラック輸送を中心に、荷主と運送会社が確認したい情報と判断手順を整理する。
警報の名称が変わった 社内マニュアルも現在の情報体系に合わせる
気象庁は2026年5月29日から、新たな防災気象情報の運用を開始した。大雨、土砂災害、河川氾濫、高潮に関する情報を、避難行動に対応する警戒レベルと分かりやすく結び付ける見直しである。従来の大雨警報は「レベル3大雨警報」という名称になり、レベル4相当の「大雨危険警報」も設けられた(気象庁、2026年)。
企業側がまず確認したいのは、社内の運行マニュアルや連絡文書が、この情報体系に対応しているかだ。古い名称だけで停止基準を記載していると、新しい情報を受け取った際に、どの段階の対応を始めるべきか迷いやすい。情報を受信するシステムだけでなく、配車担当者や委託先が使う判断表も見直しておきたい。
ただし、気象情報のレベル番号を、そのまま全車両共通の運休基準に置き換えるだけでは不十分である。同じ市町村内でも、高台の物流施設と河川沿いの倉庫では条件が異なる。出荷拠点が安全でも、配送先への接続道路や帰庫経路が危険になれば、その便の運行は再検討が必要になる。
一方、避難に関わる情報を単なる参考資料として扱うことも適切ではない。気象庁は、レベル3やレベル4の情報が出た場合、キキクルや河川水位情報などを確認し、早めの避難を心がけるよう呼びかけている。物流の判断も、危険な場所に人を入れないことを前提に組み立てる必要がある。
「全国共通の目安はない」では不正確 雨量に応じた輸送判断を確認する
大雨時の輸送には、全国共通で参照できる国土交通省の目安がある。すべての企業や道路に一律の停止時刻を定めるものではないが、運行判断の出発点となる資料だ。自社基準を作る際も、この目安を確認せず、経験や顧客の要望だけで判断することは避けたい。
| 走行区間の雨の強さ | 国土交通省が示す輸送判断の目安 |
|---|---|
| 時間雨量20~30ミリ | 輸送の安全を確保するための措置が必要 |
| 時間雨量30~50ミリ | 輸送を中止することも検討すべき段階 |
| 時間雨量50ミリ以上 | 輸送を行うことは適切ではない段階 |
| 警報が発表された場合 | 安全確保の措置を講じ、輸送の可否を判断 |
出典:国土交通省「異常気象時における措置の目安」(2020年)。
この表で重要なのは、数値を「それ以下なら必ず走れる」という許可基準として使わないことだ。雨量が目安に達していなくても、道路冠水、土砂の流入、河川の増水、通行止めがあれば、別の理由で運行を止める必要がある。雨の強さと道路の状態は、同じ情報ではない。
また、出荷拠点で観測された雨量だけを見ても、配送先までの安全は分からない。予定経路の途中で強い雨が降っている場合や、到着する時間帯に悪化が予想される場合もある。配車担当者は、現在地の雨だけでなく、車両がどこをいつ通過するかと重ねて判断したい。
基準を超える雨が予想される区間については、「現地まで行って様子を見る」という配車を避けることが重要になる。危険が高まってから引き返そうとしても、帰路や待機場所が使えなくなる可能性がある。予測を運行計画に反映する意味は、車両を危険な場所に近づける前に対応を選べる点にある。
見るべき情報は四つ 気象、危険度、河川、道路を重ねる
大雨時の確認先は、気象庁の警報だけに絞らない方がよい。警報と雨の見通し、キキクル、河川の水位や氾濫に関する情報、道路管理者が公表する通行規制を、それぞれ異なる判断材料として使う。自治体の避難情報も、拠点や納品先で人が安全に活動できるかを確認する際に欠かせない。
気象庁の「大雨キキクル」は、浸水と中小河川などの洪水による危険度を組み合わせて表示する。どちらの危険度が高まっているかを詳しく調べる場合は、浸水キキクルや洪水キキクルを確認できる。山沿いの経路では、土砂キキクルも併せて見る必要がある。
ただし、キキクルは個々の道路の通行可否を保証する地図ではない。危険度の表示が低い場所でも、道路管理者による通行止めや現場の冠水情報があれば、その条件を踏まえて判断する。道路が通行止めになっていないことも、安全に走行できるという保証にはならない。
大きな河川の近くを通る便では、河川の情報も別に確認したい。気象庁は、河川ごとに発表する氾濫に関する情報について、対象が大きな河川などに限られることを説明している。大雨キキクルの画面だけで確認を終えず、対象河川の情報や国土交通省の「川の防災情報」も確認することが必要になる。
確認する場所は、出荷地、通過区間、納品先、帰庫経路、途中の待機候補地である。幹線道路だけが安全でも、インターチェンジから納品先までの生活道路が使えなければ配送は完了できない。最後の接続区間と荷役場所まで含めて、一つの運行として点検したい。
社内で共有する際には、情報の発表時刻と担当者の確認時刻を残す。朝に確認した画面を、そのまま午後の判断に使うことは避けるべきだ。経路変更や待機を決めた場合も、どの情報を基に判断したかが分かるよう記録しておく。
出発前と走行中では対応が違う 「止める」を具体的な行動にする
運行を止めるといっても、出発を見合わせるのか、すでに走行している便を中断するのかで対応は異なる。出発前であれば、危険な区間への進入を避け、貨物を拠点で保管する選択ができる。走行中であれば、運転者の現在地と安全な待機場所を把握したうえで、次の行動を決めなければならない。
以下は、公的情報を企業の運用に落とし込むための判断整理例である。全国一律の法定停止基準を示すものではなく、各社が経路や拠点条件に合わせて具体化するための枠組みとなる。
| 状況 | 優先する対応 | 確認する内容 |
|---|---|---|
| 出発前に経路上の危険が予想される | 出発を保留し、延期や運休を協議 | 通過時刻の予測、道路規制、納品先の受け入れ |
| 安全な別経路を検討できる | 経路全体を確認して変更を判断 | 迂回路の危険、車両条件、所要時間、帰庫経路 |
| 走行中に状況が悪化した | 危険区間への進入を避け、安全な場所で中断 | 現在地、待機場所、避難情報、連絡手段 |
| 待機場所にも危険が迫っている | 荷物の予定より人の安全確保を優先 | 自治体の案内、施設の状況、安全な移動の可否 |
| 雨が弱まり、再開を検討する | 経路と荷役場所を再確認 | 冠水、土砂、通行規制、受け入れ体制 |
出発保留は、判断を先送りするための措置ではない。確認担当者、次に判断する時刻、荷主への連絡方法まで決めて初めて機能する。担当者が決まらないまま車両を待たせると、運転者が「納期に間に合わせるために出るしかない」と受け止めるおそれがある。
走行中の中断についても、運転者に「適当な場所で待ってほしい」と伝えるだけでは不十分だ。道路脇、河川沿い、斜面の下などで長時間待機させる運用は避け、安全性を確認できる施設を候補として持っておきたい。待機先が満車、閉鎖、浸水などで使えない場合に備え、代替候補も必要になる。
冠水した道路については、車両の大きさだけで通過可能と判断しないことが重要だ。水の深さや流れ、路面の状態を十分に確認できない状況では、進入そのものを避けたい。車両を前に進めることより、安全に停止や退避ができる段階で判断する方が、対応の選択肢を残せる。
迂回も、常に安全な解決策とは限らない。幹線道路の通行止めを避けて山間部に入れば、土砂災害の危険に近づく場合がある。迂回路の全区間を確認できないときは、変更して走らせることより、出発見合わせや運行中断を選ぶ必要がある。
荷主も停止判断の当事者 納期と安全を運転者に背負わせない
異常気象時の物流を、運送会社だけの問題として扱うことはできない。出荷を依頼する企業、荷物を受け取る企業、配車を行う運送会社が、停止と延期の条件を共有する必要がある。運転者が現場で荷主に直接交渉しなければ止まれない仕組みでは、安全判断が遅れやすい。
国土交通省は、気象情報などを基に輸送を中止すると決めた場合、運送事業者などは直ちに荷主へ報告するよう示している。安全な輸送ができないにもかかわらず荷主に輸送を強要された場合についても、同省の窓口などへの通報を案内している。これは、停止判断を荷主との関係まで含めて整理する必要性を示すものだ。
現在の物流効率化法に関する荷主の判断基準でも、異常気象時に無理な運送を行わせないことが挙げられている。荷役時の作業安全や、運転者の安全・休憩環境への配慮も示されている。荷主側の物流担当者は、納品の遅れだけでなく、受け入れ場所の安全条件を確認する立場にある。
事前に協議したいのは、誰が出発見合わせを伝えるか、誰が納品時刻を変更するか、どこで貨物を保管するかである。追加の待機や保管が生じた場合の費用についても、契約や協議の手順を確認しておきたい。大雨の当日にすべてを交渉し始めると、安全判断と商取引上の調整が混ざりやすくなる。
医薬品、食品、工場部品など、供給を止める影響が大きい貨物もある。こうした貨物では優先順位を決め、安全な地域の在庫や別の供給経路を検討する必要がある。ただし、貨物の重要性は危険な道路を走行できる根拠にはならず、供給維持は安全に使える選択肢の中で組み立てるべきだ。
例えば、冷蔵・冷凍品の便を出発前に止めるなら、拠点での温度管理と保管容量を確認する必要がある。走行中に待機するなら、待機場所や燃料、荷受け先の再調整も判断材料となる。これは特定の事故例ではなく、貨物条件に応じて停止後の対応まで考えるための運用例である。
運行再開は警報解除だけで決めない 道路と荷役、帰庫まで確認する
大雨が弱まったからといって、直ちに配送を再開できるとは限らない。路面の冠水が残っていることもあれば、土砂の流入や施設の浸水によって経路が使えないこともある。再開の判断では、気象情報の改善と、道路・施設の復旧を別々に確認する必要がある。
最初に確認するのは、予定経路の規制と現場状況である。通行止めが続いている区間があれば、解除を待つか、安全を確認できる別経路を検討する。通行規制が解除された場合も、納品先への接続道路や構内の安全まで自動的に確認されたことにはならない。
次に、荷受け先が実際に受け入れられるかを確認する。店舗や工場が営業していても、搬入口が浸水している、担当者が出勤できない、荷役機器を使えないといった状況は考えられる。車両を出してから受け入れ不能が分かる事態を避けるため、納品時刻と荷役条件を改めて調整したい。
運転者の状態も再開条件に含める必要がある。長時間の待機や予定変更があった便を、遅れを取り戻す目的でそのまま走らせる運用は避けたい。休憩、交代の必要性、残りの行程を踏まえて、実行できる運行計画に組み直すことが重要になる。
再開は一斉に行う必要もない。安全を確認できた経路や受け入れ可能な納品先から順に再開し、条件が整わない便は延期する方法が考えられる。遅延貨物をすべて同時に動かすと、拠点や荷役場所に車両が集中するため、復旧後の配車にも調整が必要となる。
BCPに必要なのは「止める権限」と「再開する条件」
企業の事業継続計画で、大雨時の対応を「状況に応じて判断」とだけ記載していては、現場で使いにくい。確認する情報、判断する担当者、運転者が危険を報告した際の対応、荷主への連絡先を具体化する必要がある。停止基準と併せて、停止を実行できる権限を明確にしたい。
出発前、走行中、待機中、再開前では、必要な確認が異なる。それぞれの段階で、誰が車両の位置と経路を把握し、誰が納品先と調整するかを決めておくことが重要だ。運転者が現場の異変を伝えたときには、警報の発表を待たずに、安全確認や運行中断を始められる仕組みが必要になる。
判断記録も、雨量の数字や警報名だけでは足りない。確認した時刻、対象の便、危険が想定された区間、選んだ対応、次の確認予定を残すことで、引き継ぎと荷主への説明がしやすくなる。対応後の検証では、情報が届いた時点から実際の停止までに何が妨げになったかを確認したい。
物流を安全に止めることは、事業継続のための対応でもある。車両や人員が危険な場所で動けなくなれば、目の前の一便だけでなく、その後の配送計画にも影響が広がる。出発見合わせと保管、納品調整を早く決めることは、復旧後に物流を戻すための準備となる。
大雨時の運行判断では、公的な輸送の目安を基礎に、経路の危険、道路規制、荷役場所、運転者の安全を確認する。安全を確認できない便は出発を見合わせ、走行中の便は危険な区間に入る前に対応を決める。荷主と運送会社が停止の権限と再開条件を共有しておくことが、納期の圧力に左右されない物流体制につながる。
主な参照資料:気象庁「新たな防災気象情報について」「大雨キキクル」、国土交通省「台風等による異常気象時下における輸送の目安」「物流効率化法・荷主の判断基準等」。情報体系は2026年9月時点。