日本の炭素排出管理スタートアップ、アスエネ(ASUENE)は7月23日、シリーズDラウンドで135億円を調達したと発表した。米ブラックロックとシンガポールのテマセクが共同設立した脱炭素特化の投資会社「Decarbonization Partners」がリードし、調達資金は海外M&Aや事業拡大、AIを活用した製品開発に充てる。国内発のSaaSを基盤に、グローバルなサステナビリティ・プラットフォームへの転換を加速させる局面に入った。
調達の内訳は、新規発行株による資金調達(プライマリー)が68億円、既存株の売買(セカンダリー)が37億円、残りは三井住友銀行などからの借入で構成された。これにより累計の資金・借入調達額は250億円となった。金額規模は7月の国内スタートアップの調達案件の中でも目立つ水準である。
投資家ではDecarbonization Partnersが筆頭で、同ファンドによる日本のスタートアップへの直接投資は初めてとなる。マレーシア国営エネルギー企業ペトロナスのCVCであるTwin Towers Venturesも新たに参画。既存投資家のスパークス、インキュベイトファンド、環境エネルギー投資、ダイキン工業、リコー・イノベーションファンドなども追加投資した。国内VC中心ではなく、グローバル運用会社やエネルギー企業系投資家が入った点は、同社の成長ステージが海外市場へ移りつつあることを示す。
アスエネは2019年創業。主力のクラウドサービス「ASUENE」は、電力・燃料使用や物流、原材料などのデータを基に温室効果ガス排出量を算定・管理する。自社の直接・間接排出(スコープ1・2)にとどまらず、原材料調達や協力企業を含むサプライチェーン全体(スコープ3)を対象にするのが特徴だ。現在は製品別カーボンフットプリントやLCAの算定、CDPやSBTi、EUのCSRD、日本のSSBJなど各種開示への対応支援、カーボンクレジット調達、ESG評価支援まで領域を広げている。2026年7月時点で「ASUENE」の累計導入企業は2万2千社を超え、グループ全体の支援先は国内外で5万社以上としている。
顧客基盤も大企業へ拡大している。スズキとは、27の国・地域にまたがる事業拠点のCO2データを単一プラットフォームで管理する取り組みを進める。日本のSSBJだけでなく欧州のCSRDへの対応も見据える。三井住友フィナンシャルグループも同社のプラットフォームを用い、グループ全体の排出量データ管理と監査対応の基盤整備を進めている。
資金調達の発表と同じ日に、英国オックスフォードに本社を置く2degreesの買収も公表した。2degreesが運営する「Secaro」は、製造業のサプライチェーンにおける排出情報を収集・分析するプラットフォームで、北米・欧州を中心に90カ国超のデータを扱う。買収額は将来の業績連動支払いを含め最大60億円。アスエネにとって8件目のM&Aであり、米国、シンガポール、タイ、英国などに拠点を広げ、約530人の体制で米欧亜に事業を展開している。
背景には、企業の炭素排出管理が「任意」から「実務・開示上の必須」へと転じた環境変化がある。特に欧州を中心とする開示規制の強化により、輸出企業はサプライヤーを含む排出量の把握と報告が求められる。協力会社が数千社に達する製造業では、Excelやメールでの集計には限界があり、データの自動収集・検証・可視化を担うプラットフォームの需要が高まっている。アスエネが製造業のサプライチェーン領域に注力する理由である。
グローバル投資家主導の大型調達と英国企業の買収を同時に進めた今回の動きは、同社がCO2算定SaaSから、開示・検証、クレジット、エネルギー管理までを束ねる「総合プラットフォーム」へと軸足を移す過程を映し出す。今後は、日本で獲得した顧客基盤をてこに、海外の製造業サプライチェーンへどれだけ迅速に展開できるかが焦点となる。