人工衛星の急増で軌道上の混雑と衝突リスクが高まるなか、JAXA出身者が立ち上げた宇宙スタートアップのStar Signal Solutions(東京・日本橋)が、宇宙ゴミ(スペースデブリ)回避技術の事業化に向けて資金を厚くした。同社は7月15日、JAFCOグループを引受先とする第三者割当増資で4億5000万円を調達した。資金は地上からの観測網拡充、宇宙状況把握(SSA)の基盤整備、研究開発と人材採用、海外での事業開発に充てる。
Star Signal Solutionsは2023年10月設立。JAXAで培われた宇宙物体の観測・軌道解析の知見を民間サービスへ移転することを掲げる。衛星と他の宇宙物体の接近時に衝突リスクを評価し、効率的な回避機動を設計するソフトウエア「S-CAN」を主力に据える。将来的には運用者の判断を待たずに衛星が自律的に回避行動を取れる仕組みへの展開も見据えるという。
S-CANの技術的な土台となるのが、JAXAが開発した接近危険度評価ツール「RABBIT」である。同社によれば、RABBITは約60機関、140機以上の衛星運用での活用実績がある。同社はこの技術を民間の運用現場で使いやすい形に再設計し、衛星運用会社のシステムへ連携しやすくした。単に「危険」を通知するだけでなく、いつ・どの方向へ・どの程度噴射すべきかまで含めて合理的な回避案を提示する点を強みとする。回避は燃料消費やミッション計画に影響するため、必要最小限で確度の高い提案が求められるからだ。
SSAはSpace Situational Awarenessの略称で、宇宙空間の物体を観測・追跡し、衛星の安全運用を支える技術・体制を指す。Star Signal Solutionsは、地球周回軌道で衛星やロケット残骸、過去の衝突で生じた破片が増え続けている現状を踏まえ、衛星や宇宙インフラに影響を及ぼし得るデブリの数を約50万~120万個と見積もる。特に10センチ以下の小片は観測・追跡が難しい一方、超高速で飛翔するため被害が大きくなり得る。
同社のサービスは国内外での実装が進みつつある。2025年11月にはフィリピン宇宙庁と宇宙状況把握分野での協力覚書(MOU)を結び、S-CANの利用が始まった。フランスの宇宙状況認識企業Look Upとも協力関係を構築しており、オーストラリアの宇宙企業とは観測分野での連携を広げている。衛星運用や国家安全保障、災害対応、通信インフラと直結するSSAは、政府機関が主要なユーザーとなる性格が強い。海外の公的機関が実利用に踏み出した意味は小さくない。
資金面では民間調達に加え、JAXAが運用する宇宙戦略基金の第2期事業にも採択され、今後4年間で約20億円規模のプロジェクトを進める。主眼は既存のシステムでは把握が難しかった10センチ以下の小型デブリの検出と追跡で、オーストラリアに大規模観測設備を整備する計画だ。日本やオーストラリアなど複数地域に観測点を配すことで、天候や時間帯による観測の途切れを抑え、軌道データの量と質を高める狙いがある。
宇宙ゴミ対策といえば除去技術が注目されがちだが、優先されるのは「正確に見つけ、管理する」ことである。追跡されていない小片が多い状況では、衝突リスクの評価も除去対象の優先順位付けも定まらない。同社は観測網で得たデータを独自の軌道解析で将来位置まで推定し、宇宙物体データベースを整備したうえで、S-CANにより実運用の回避判断へ結び付ける一連の流れを事業化する。単体の回避ソフトにとどまらず、観測・解析・運用支援までを束ねる統合SSAプラットフォームの構築を目指す立ち位置だ。
衛星の世界では、機体数の増加に伴って保険、管制、衝突回避、追跡・カタログ化といった後方の基盤産業が同時に立ち上がる。今回の4億5000万円の調達は、デブリを直接「片付ける」事業ではなく、危険物を素早く見つけ、どこへ動くかを計算し、衛星が避けるための最短経路を示す情報基盤づくりに充てられる。JAXA発の技術を迅速に社会実装し、海外の運用現場にどこまで入り込めるか。日本発の宇宙交通管理ビジネスの競争力は、観測網の規模とデータの精度、そして運用現場での使われ方で試される。