三菱重工とNEC、防衛分野で戦略提携へ 無人アセットとAIが変える日本の防衛産業

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▲左:日本電気株式会社 執行役 Corporate EVP 兼 COO 永野博之 右:三菱重工業株式会社 常務執行役員 防衛・宇宙セグメント長 江口雅之 出典:三菱重工

作戦計画・指揮統制からクラウド運用まで連携 「装備品メーカー」と「IT企業」の境界が薄れる

三菱重工業とNECが、防衛分野で戦略的な提携に乗り出す。両社は9月2日、作戦計画や指揮統制、無人アセットなどの領域で連携を強化するための覚書を締結したと発表した。狙いは、防衛装備品とデジタル技術を一体で運用できる体制を構築し、日本の防衛産業基盤を強化するとともに、データとAIを自国で管理・活用できる「主権性」を高めることにある。

三菱重工はミサイルや艦艇、航空・宇宙、防衛システムなどハードウエア分野で日本を代表する企業であり、NECは通信、AI、クラウド、センサー、指揮統制システムなどのデジタル領域に強みを持つ。今回の提携は、それぞれの専門領域を単純に持ち寄るというより、防衛装備と情報システムを最初から一体として設計する方向へ日本の防衛産業が移り始めたことを示している。


防衛装備の中心が「単体」から「ネットワーク」へ


これまで防衛装備品の性能は、航空機や艦艇、ミサイル、レーダーといった個別装備の能力によって語られることが多かった。しかし無人機やAI、クラウド、衛星通信の活用が広がる現在では、個々の装備がどれだけ高性能であっても、それらをリアルタイムで接続し、情報を共有しながら運用できなければ全体としての戦闘力を高めにくい。

三菱重工とNECが今回、作戦計画や指揮統制、無人アセットを主要な連携分野として挙げたのは、その変化を反映したものだ。両社は、防衛装備品とクラウドの運用一体化やAI技術の活用が進むなか、新たな指揮統制システムの構築を含む製品・サービスを提供していくとしている。

ここでいう指揮統制は、単なる通信システムではない。複数のセンサーや無人機、艦艇、航空機などから送られてくる情報を統合し、その情報を基に状況判断や作戦立案、部隊への指示までを迅速につなげる仕組みが中心になる。


無人機は「飛ばす技術」だけでは足りない


今回の提携で注目されるのが、両社が「無人アセット」を明確に対象分野として掲げた点である。無人航空機や無人車両、無人艇などは各国の防衛政策で重要性を増しているが、実際の運用では機体そのものより、複数機をどのように統合して動かすかが重要になっている。

例えば複数の無人機から得た映像や位置情報をリアルタイムで処理し、AIが脅威を識別したうえで指揮系統へ情報を送る場合、機体設計、通信、センサー、データ処理、AI、クラウドを一つのシステムとして設計する必要がある。従来のように装備メーカーとIT企業が別々にシステムを提供するだけでは、運用時の速度や互換性に限界が生じやすい。

三菱重工とNECの連携は、この部分を企業間協業によって補おうとする動きとみることができる。三菱重工が持つ防衛装備と運用に関する知見に、NECの通信・AI・データ処理技術を組み合わせれば、無人機を含む複数装備を一つのネットワークとして運用するシステム開発につながる可能性がある。


AI主権が防衛産業の新しい競争軸に


両社の発表で特徴的なのは、「データ・AI主権」という言葉を前面に出したことだ。防衛分野でAIを利用する場合、単に高性能なアルゴリズムを導入すればよいわけではなく、どの国の技術やクラウドを利用し、誰がデータにアクセスできるのかという問題が安全保障そのものに直結する。

軍事行動に関するデータや装備の運用情報を国外企業のクラウドやAIに過度に依存すれば、システム障害や輸出規制、サービス停止などが起きた場合に運用上のリスクが生じる。そのため防衛システムでは、重要なデータやAIモデルを国内で管理し、必要な技術を自国企業が維持できる体制が求められる。

三菱重工とNECも、今回の提携を通じて防衛産業基盤の強化とデータ・AI主権の確立を目指すと明記している。両社の協業は、単なる防衛装備の共同開発ではなく、日本国内で重要技術を維持する産業政策としての側面も強い。


防衛産業で求められる「開発速度」


もう一つの重要な論点は、防衛装備の開発速度である。従来の大型防衛装備は開発から配備まで長期間を要するケースが多かったが、AIや無人機、ソフトウエアを中心とする装備では、技術更新の周期がはるかに短い。

三菱重工とNECも、防衛産業の中核企業には無人アセットやAIを活用した「新しい戦い方」に対応するため、防衛装備品の能力向上サイクルを高速化する役割が求められていると説明している。

ソフトウエアやAIは、配備後も継続的に機能を更新できる。一方で従来の防衛調達制度が長期的な仕様固定を前提としている場合、技術の進歩に調達速度が追いつかない問題が生じる。装備メーカーとIT企業が開発段階から連携することは、この時間差を縮める手段の一つになる。


三菱重工は防衛装備、NECは情報基盤


両社の組み合わせには一定の補完関係がある。三菱重工は日本の防衛・宇宙産業で幅広い製品群を抱え、艦艇やミサイル、航空・宇宙分野を含む大型システムの開発能力を持っている。

一方、NECは防衛・宇宙分野で通信やレーダー、情報システムなどに関わってきたほか、民間分野でもAIやクラウド、ネットワーク技術を展開している。今回の提携では、三菱重工の「装備」とNECの「情報」を接続する構図が明確になっている。

この組み合わせが進めば、防衛産業における企業の役割も変わる可能性がある。将来の防衛システムでは、ハードウエアを製造する企業とソフトウエアを開発する企業を明確に分けることが難しくなり、両者を統合できる能力が競争力を左右するからだ。


日本の防衛企業に広がる再編圧力


防衛装備のデジタル化が進めば、同様の企業連携が他分野にも広がる可能性がある。特に無人機、サイバー、宇宙、AI、通信の分野では、従来の重工業企業だけで技術を完結させることは難しく、IT企業や半導体企業、スタートアップとの協力が不可欠になる。

これは防衛産業の企業構造にも変化を促す。これまでは完成品メーカーを頂点として部品メーカーが連なる垂直的な供給網が中心だったが、ソフトウエアやAIが重要になるほど、異なる産業の企業が横断的に組むネットワーク型の開発体制が求められる。

三菱重工とNECの提携は、日本の防衛産業がそうした構造へ移行する一つの事例とみることができる。両社が今後どの分野で具体的な共同事業を立ち上げるかはまだ明らかになっていないが、指揮統制と無人アセットを中心に協力が進めば、関連企業への波及も大きくなる可能性がある。


防衛装備のクラウド化が産業構造を変える


防衛装備とクラウドの一体運用も、今回の提携を読み解く重要なポイントである。クラウドを利用すれば、複数の拠点や装備から集まる大量のデータを共有しやすくなり、AIによる分析も迅速に行える。

ただし防衛分野では、一般的な企業向けクラウド以上に厳格なセキュリティや可用性が求められる。通信が遮断された環境でも一定の機能を維持できることや、サイバー攻撃を受けても重要な情報を保護できることが必要になるため、民間向け技術をそのまま転用するだけでは十分ではない。

こうした要件に対応するには、防衛装備の運用を理解する企業とデジタル基盤を構築できる企業が早い段階から共同設計する必要がある。今回の協業は、まさにその接点をつくる試みといえる。


防衛産業は「製造業」だけではなくなる


今回の提携が示す最大の変化は、日本の防衛産業が従来型の製造業だけでは説明できなくなりつつあることだ。これからの防衛システムでは、機体や艦艇、ミサイルといった装備そのものに加え、それらを接続するネットワーク、情報を処理するクラウド、判断を支援するAIが同じ程度に重要になる。

三菱重工とNECは、互いの強みを組み合わせて新たな指揮統制システムを構築し、信頼性の高い製品やサービスを提供するとしている。三菱重工の伊藤栄作社長は両社の先進技術と知見の融合を重視し、NECの森田隆之社長も日本の技術を結集した主権性の高い防衛システムを目指す姿勢を示した。

装備品を製造する能力だけでは、防衛産業の競争力を維持できない時代が始まっている。ハードウエア、通信、ソフトウエア、AI、クラウドをどこまで一体化できるかが次の競争軸となり、今回の三菱重工とNECの提携は、その変化を象徴する動きになりそうだ。

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