ロシア・イラン産原油、陸上パイプライン、備蓄拡大を組み合わせ
中国が狙うのは「安く買うこと」より「止まっても耐えること」

米国とイランの軍事的緊張が中東の海上交通を揺さぶるなか、世界の原油市場は再びホルムズ海峡に目を向けている。ペルシャ湾岸の原油やLNGがアジアへ向かうこの狭い海峡は、エネルギー供給の急所である。米エネルギー情報局は、2024年にホルムズ海峡を通過した原油・コンデンセートの主要な行き先が中国、インド、日本、韓国だったと分析している。4カ国で全体の69%を占めており、ホルムズの混乱はそのままアジア経済のリスクとなる。
なかでも注目されるのが中国だ。中国は世界最大の原油輸入国でありながら、今回の危機では一般的な輸入国とは異なる動きを見せている。米コロンビア大学グローバルエネルギー政策センターによると、中国の2025年の原油輸入は日量1160万バレルと過去最高に達した。地政学的緊張、低価格、供給過剰を利用して備蓄を積み増したため、中国はイランやベネズエラからの供給が数カ月途絶えても一定程度耐えられるとみられている。
中国の戦略を一言でいえば、米国が管理する海上秩序にすべてを委ねないというものだ。海上輸送路が遮断される事態に備え、輸入先を分散し、制裁対象国の原油を割安に取り込み、ロシア、中央アジア、ミャンマーにつながる陸上エネルギー回廊を整えてきた。国際規範の中心に立つというより、グレーゾーンの供給網まで活用してエネルギー安全保障を固める発想である。
2025年の中国の主要な原油供給国は、ロシア、サウジアラビア、マレーシア、イラク、ブラジルだった。この5カ国で中国の原油輸入全体の約62%を占める。とりわけロシア産原油は、ウクライナ侵攻後の西側制裁で販路が限られるなか、中国にとって重要な供給源となった。中国にとっては割安な価格と供給の安定性を同時に得られる選択肢であり、ロシアにとっても巨大な買い手を確保する意味がある。
より敏感なのがイラン産原油である。米国の制裁にもかかわらず、中国の一部の製油業者はさまざまな迂回ルートを通じてイラン産原油を取り込んできたとみられる。コロンビア大学の分析は、イラン、ロシア、ベネズエラなど制裁対象国の原油が中国の輸入構造で重要な比重を占めていると指摘している。これは中国が西側の制裁体制と一定の距離を取りながら、調達コストを下げ、供給源を広げてきたことを意味する。
ホルムズ危機は、この戦略の弱点と強みを同時に浮かび上がらせた。弱点は、中国が依然として中東原油に大きく依存していることだ。サウジアラビア、イラク、イラン、UAEなど湾岸地域からの供給が揺らげば、中国の製造業や石油化学産業も無傷ではいられない。米エネルギー情報局によれば、ホルムズ海峡を通過する流れは2024年と2025年第1四半期も、世界の海上原油貿易の4分の1超、世界の石油・石油製品消費の約5分の1に相当した。
一方で、中国の強みは備蓄と需要調整にある。最近の報道では、ホルムズ危機の局面で中国が原油輸入を大きく減らし、アジア市場の供給逼迫を和らげる要因になったとされる。ウォール・ストリート・ジャーナルは、市場データをもとに、中国の2026年5月の原油輸入が日量約660万バレルまで低下したと報じた。高値と精製活動の鈍化を背景に、中国の輸入業者が既存在庫により依存しているとの見方である。
中国の石油備蓄の規模は透明ではない。米国や日本のように戦略備蓄の規模や放出方針を比較的明確に管理する体制とは異なり、中国では国家備蓄と商業在庫の境界を外部から把握しにくい。ロイターは、中国がウクライナ戦争後にエネルギー供給の不安定化を受け、原油備蓄基地の建設を急速に進めており、2025年から2026年にかけて11の新たな備蓄施設を追加していると報じた。
この不透明さは、中国にとっては戦略的資産だが、市場にとっては不確実性である。中国がどれだけの在庫を持ち、いつ再び大規模な輸入に動き、危機時にどこまで輸入を抑えられるのかが見えにくいからだ。中国の輸入減は短期的には価格急騰を抑える緩衝材になりうるが、再備蓄に転じれば国際原油価格を押し上げる要因にもなりうる。
中国の異形の石油戦略は、エネルギー安全保障を超えて米中競争の一断面を示している。米国は空母、同盟網、ドル決済網を通じて海上エネルギー秩序を支えてきた。中国はその秩序を利用しながらも、同時にそこから抜け出す道をつくっている。ロシア産原油、制裁対象国の原油、陸上パイプライン、港湾投資、戦略備蓄の拡大は、すべて同じ方向を向いている。戦争、制裁、海上封鎖が起きても、米国が握るチョークポイントに完全には縛られないという発想だ。
日本にとっても、これは対岸の話ではない。日本も中東産原油とホルムズ海峡に大きく依存している。中国が備蓄と代替供給網で衝撃を吸収するほど、危機時の原油調達競争は複雑になる。中国が輸入を減らせば短期的には価格圧力が和らぐ可能性があるが、中国が再び在庫を積み増す局面では、アジアの製油業者がより高い価格を受け入れざるをえない場面もありうる。
ホルムズ危機は、中国の石油戦略が単なる購買戦略ではなく、国家安全保障戦略であることを示した。中国は安い原油を探すだけの消費国ではない。海上路が止まり、制裁が強まり、国際市場が混乱する事態まで織り込む備蓄型のエネルギー大国として動いている。国際原油市場における中国の沈黙は、もはや受け身の姿勢ではない。それは価格を抑え、供給網を迂回し、米国中心の秩序と距離を取るための戦略的な沈黙である。