ソフトバンクG、最大750億ユーロ規模のAIインフラ構想
原子力を軸とする低炭素電源を背景に「計算資源の輸出」を狙う

ソフトバンクグループが、生成AI時代のインフラ競争でフランスに照準を合わせている。AI半導体や大規模言語モデルの開発競争が注目されてきたが、孫正義会長兼社長が次に見据えるのは電力だ。AIデータセンターは、もはやサーバーを並べる施設ではない。安定した電源、冷却設備、通信網、土地、金融を一体で組み上げる巨大な産業インフラになっている。
データセンター専門メディアのDCDなどによると、ソフトバンクはフランスで最大750億ユーロ規模のAIデータセンター投資を計画している。全体では約5GWの能力を想定し、第1段階では450億ユーロを投じて2031年までに3.1GW規模のAIデータセンターを整備する案が報じられている。候補地としては、フランス北部のオー=ド=フランス地域にあるダンケルク、ボスケル、ブシャンなどが挙がっている。
この構想の土台にあるのが、フランスの電力構造である。AIデータセンターは膨大な電力を安定的に必要とする。大規模な学習や推論を担う施設では、電力需要のピークや冷却負荷も大きく、電力価格と供給安定性が立地競争力を左右する。フランスは原子力を中心とする低炭素電源を持ち、欧州の中でも大規模データセンターを誘致しやすい条件を備えている。
フランス送電網運用会社RTEによると、2025年のフランスの総発電量は547.5TWhで、低炭素電源による発電量は521.1TWhと過去最高を記録した。化石燃料による火力発電は75年ぶりの低水準だった。AIインフラを誘致するうえで、この低炭素かつ安定した電力供給は大きな武器となる。
孫氏が描く「計算資源の輸出」という発想も、ここから生まれる。AIサービスは必ずしも利用者のいる国で計算する必要はない。電力が安く安定し、高速通信網を備えた地域でAIの処理を行い、その結果を他国の企業や利用者に提供することができる。製造業の時代に電力が工場を動かしたように、AI時代には電力がデータセンターを通じて知能サービスへと変換される。
フランス政府にとっても、この構想は大きな意味を持つ。マクロン政権は欧州のAI主権を強化しようとしている。フランス大統領府は、AIアクション・サミットを契機に、フランス国内のインフラ関連プロジェクトで1090億ユーロ超の投資が発表されたとしている。また、Mistral AI、Hugging Face、Dataikuなど、欧州を代表するAI企業や研究拠点がフランスに集積している点も強調している。
ただし、ソフトバンクの投資がそのまま欧州の完全なAI自立につながるわけではない。巨大AIデータセンターは、米国企業が主導する半導体供給網やクラウドサービスと深く結びついている。英フィナンシャル・タイムズは、フランスの大型データセンター構想がAI主権を後押しする一方、実際には米国製チップや米大手クラウド企業への依存が残る可能性を指摘している。
資金面のハードルも高い。最大750億ユーロという投資額は、AIインフラ案件としても極めて大きい。データセンター本体だけでなく、送電網への接続、変電設備、冷却システム、土地取得、許認可、長期電力契約、サーバー更新費用まで含めると、実際の負担はさらに膨らむ可能性がある。初期段階の稼働が2031年以降になるとの見方もあり、技術や需要の変化をどう見極めるかが問われる。
それでも、ソフトバンクがフランスを選ぶ理由は明確だ。AI競争のボトルネックが、モデルや半導体だけでなく、インフラそのものに移っているからだ。生成AIの利用が広がるほど、企業はGPU、メモリー、ストレージ、通信網、そして安定した電力を必要とする。最近の研究でも、AIデータセンターの急増が電力システムに構造的な負荷をかけ、北米、西欧、アジア太平洋地域に計算能力が集中する可能性が示されている。
ソフトバンクの狙いは、単にデータセンターを建設することではない。傘下に半導体設計会社Armを持ち、OpenAIとの大規模AIインフラ構想にも関わり、エネルギー、通信、ロボティクスを組み合わせてAI時代の基盤事業者になるという構想がある。フランス投資は、その中で「電力と立地」を押さえる重要な一手といえる。
日本企業にとっても示唆は大きい。AI時代の競争力は、半導体やソフトウエアだけで決まらない。サーバーを何十万台も動かす電力、発熱を処理する冷却、国境を越えてデータを運ぶ通信網まで含めた総合力が問われる。AIインフラの主戦場は、研究所やチップ工場だけではなく、発電所と送電網の近くにも広がっている。
ソフトバンクのフランス投資は、AI産業の重心がどこへ移りつつあるのかを映している。これまでAI競争は、モデルと半導体の競争として語られてきた。次の段階では、電力、土地、冷却、ネットワークを誰が先に確保するかが勝敗を分ける。孫氏がフランスで見たのは、単なるデータセンター用地ではない。電力を知能に変える、新しい産業プラットフォームである。